突然の家庭訪問

8月○○日 午後5時

僕は1人自宅のリビングのソファにもたれかかった。 両親は数日前から留守にしているので家には僕以外誰もいない。

両親が留守であればもっと解放感があっても良いのだが、 どうにも気分が落ち着かない。僕はおもむろにテレビを付けた。

ちょうど5時ということでニュース番組が始まった。 今日は一部番組の内容を変更してお届けしています。とのナレーションが耳に入った。

今日のテレビ番組は1日中こんな感じだ。ここまで何度もやれば知らない人はもういないだろう。

今日は大きな事件が二つ起こった。

まず一つは海外の話だが、テロが起きたらしい。 それによって海外への渡航が制限され、航空網が麻痺しているとのことだった。空港では出国できない人たちの長蛇の列ができているようだ。

そしてもう一つは、県内の刑務所に収監されている囚人が脱走したようだった。このあたりに潜伏している可能性もあるので厳重に警戒するようにと呼び掛けていた。

逃亡犯が宅配業者等を装いインターフォンを鳴らし、こちらがドアを開けたところを襲われるという可能性もあるので、心当たりのない宅配業者にはドアを開けないよう報じられていた。

ちょうどその時、タイミングよく家のインターフォンが鳴った。 あまりのタイミングにドキッとしたが、心当たりはある。 とはいってもあまり前向きではないのだが。

ドキドキしながら受話器のもとへと向かい、モニターを覗いた。 来たのは何人だろう??

玄関の前にいるのは・・・1人、2人、3人、4人。

4人だって??
どういうことだ、これは??

確かに1人で来るなんて言っていなかった。 しかしよりによって4人勢揃いとは。 これは予想外だ。さすがにちょっと手におえない。

このままドアを開けていいものだろうか。この状況でこの4人を家に入れることは、かなりのリスクだ。

しかし家の前まで来ているこの段階でもう後になんて引けない。 大きく深呼吸をすると覚悟を決めて受話器を手に取った。

「こんにちは、颯太くん。内海です。結局4人で来ちゃった。ねぇ早く開けてよ~。」 そう、今玄関の前にいるのは担任の奈緒先生をはじめ4年生の先生達4人。

なぜこんなことになったかというと、それは遡ること数時間前の話。

8月○○日 午後1時

夏休みも残すところあとわずか。

そう、あとわずかしかない。
言うまでもないと思うが、悩みの種はもちろん夏休みの宿題。

夏休みが始まってから一度も出さず、ずっとカバンに眠ったままで今日まで来てしまった。

恐る恐るカバンから出してみると改めてその量に圧倒された。
これはちょっと無理かもと一瞬諦めモードになる。

でも諦めるわけにはいかない。9月1日に間に合わなければ大変なことになる。
こないだの出校日に先生に宿題のことを聞かれたときに、さすがに全くやっていないとは言えずに思わず嘘を付いてしまった。

今思うと、控えめに嘘を付けばよかったのに勢いでもう全部終わったと言ってしまった。

もう、後には引けない。
昼食を食べたら取りかかろう。でも冷蔵庫には何も食料がない。
仕方なく僕は近所のスーパーに買い出しに出かけた。

実は今、うちの両親は海外に住んでいる親戚に会いに出かけているため、僕は家で1人留守番。

こんなことしている時間も惜しいのにと早足でスーパーに向かうと、 手当たり次第食料をカゴに入れた。もちろん、料理なんてできないからレトルト食品やカップラーメンばかりの毎日だ。親の帰ってくるまであと少しの辛抱だと自分に言い聞かせた。

レジ待ちをしていると聞きなれた声で声を掛けられた。

「あら、もしかして、颯太くん?」

振り向くと声の主は少し驚いた顔をしていた。

「あ、やっぱりそうだ。こんにちは。」

「あ、奈緒先生。びっくりした。」

「どうしたの?1人でこんなに買い込んで。」

先生に事情を話した。

「そうなんだ。一人でお留守番大変ね。でも、ちゃんと栄養あるもの食べないとダメだよ。」

「ハハ、そうだよね。でも明後日には帰ってくるから。それじゃあね。」

宿題をやっていないことの後ろめたさからあまり話もせずに足早にスーパーを後にした。

ちょっと素っ気なかったかな?
せっかくニコニコした笑顔で話しかけてくれていたのに。

でもこのままだと9月1日にはあの笑顔は見られないだろう。

それどころか・・・

奈緒先生は、時間や期限には本当に厳しい。
だから遅刻とか宿題を忘れたりするとすっごく怒られる。

夏休み前の終業式のときも夏休みの宿題をやってこなかったら みたいな話をしていた。

怖くて思い出したくない。

とにかくなんとかしないと! 家に戻るととりあえずカップラーメンにお湯を入れた。 食べ終わったら取りかかろう。そう心に誓ったが宿題の量と残された時間ともしできなかったときのことを考えるととても憂鬱だった。

食べ終わってしばらくすると僕の携帯が鳴った。ママからだった。

「もしもし、颯太。いまそっち大変なことになってるね。」

「大変なことってなに?」

「もう、何のんきなこと言ってるの。テレビ付けてみて。」

言われた通りテレビを付けるとちょうど緊急のニュースがやっていた。

内容は二つあって一つは県内の刑務所に収監されている囚人が脱走したらしく厳重に警戒するようにとのことだった。 そしてもう一つは海外でテロが起きて航空網が麻痺しているというものだった。

「心配だから今すぐ日本に戻ろうと思ったんだけど、今飛行機が全然飛ばなくてしばらく帰れそうにないの。でも颯太1人はさすがに危ないでしょ。 だからなんとか他の親戚の人にお願いして家に来てもらえるか頼んでみるね。だからそれまで戸締りだけはきちんとしておいてね。」

言われた通り家の戸締りを確認していると今度は家の電話が鳴った。

奈緒先生からだった。

「颯太くん。ニュース見た?ご両親いつ戻られるの?心配になっちゃって。」

事情を話すと奈緒先生からもママに電話してみるとのことだった。 しばらく待っているとママから連絡が入った。

「ねぇ颯太、さっき奈緒先生から電話頂いて、色々話したところね、奈緒先生がしばらくうちに泊まってくれることになったの。ちゃんという事聞くのよ。」

「え?!」

話が全く理解できない。
一体どうしたらそんな展開になるんだろう。
この状況でそんなことをされては、はっきりいってすごく困る。

話を聞いたところ、
ママは親戚の伯父さん、伯母さん何人かに声をかけたがすぐに来てくれるという訳にはいかなかった。それだけでなくママがいつ日本に戻れるかも分からない状況でずっと家に泊まり込める人はいなかったらしい。 困り果てているママのもとに奈緒先生から連絡が入り、状況を話したところ奈緒先生から提案があったらしい。 さすがにそんな迷惑はかけられないとママは断ろうとしたが他にあてがなかったので迷惑を承知でお願いしたらしい。

どれだけ僕が食い下がっても覆らなかった。

電話を切るとため息が出た。奈緒先生の厚意は有り難いかもしれないけど、これからひたすら宿題をやらないといけない時によりによって奈緒先生が家にいるというのはマズイ。

こないだの出校日のときに宿題は全部終わったと奈緒先生には嘘をついてしまっている。本当は何にも手をつけていないのに。

そんな状況でどうやって宿題をやればいいんだ。

実は全然やっていませんでしたなんて言おうものなら命はないかも。
考え込んでいると、またしても家の電話が鳴った。奈緒先生からだった。

夕方くらいにこっちに来るらしい。

先生がうちに来るという現実を受け入れられず、気持ちが落ち着かなくなってきた。

「お邪魔しま~す。すご~い、素敵なお家ねぇ。」

「大人数でおしかけてゴメンね。しばらくの間よろしく。」

「ご飯まだでしょ。買い物してきたからおいしいものたくさん作るね。」

「どうしたの?そんな暗い顔して。仲良くやりましょ。」

なんだか楽しそう先生達のなかで僕だけ1人浮かれない表情だった。

「私1人だと心細いから、他の先生にも声掛けたらね、みんな協力してくれるって。だから4人で来ちゃった。びっくりしたでしょ。」

先生達は、家に入ると早速夕食の準備に取り掛かってくれた。

「いただきま~す」

ここ数日、ずっと寂しい食卓だったので、大人数でご飯を食べるのはちょっと嬉しかった。

でもやっぱり、自分の家の食卓に先生4人がいるというのはどうにも違和感がある。

ハンバーグにサラダにスープ。先生たちが来てくれなかったらこんな豪華な夕食にはとてもありつけなかった。

早速ハンバーグを一口食べたが、はっきり言ってママの作るハンバーグよりずっと美味しかった。毎日カップラーメンの食生活だったから余計に美味しく感じるのだろうか。

「ちょっと、このハンバーグすっごく美味しい♪」

他の先生も絶賛だった。沙織先生が恥ずかしそうに謙遜しているところを見るとどうやら沙織先生が作ったようだ。

「颯太くん、ずっとカップラーメンだったのよね?たくさん食べてね♪」

「今後のことなんだけど、今日だけは、4人で泊まらせてもらうけど明日からは二人ずつの交代制にしようと思うんだけどいいかな。」

「そっちの方がいいな。先生が4人も家にいたらちょっと落ち着かないし。」

「フフ、そうよね。」

「私達がいて気にするなって言う方が難しいかもしれないけど、極力干渉はしないようにするから、しばらくの間我慢してね。いつも通りにしてていいからね。」

「え?いいの??」

「もちろん。ガミガミ言わせてもらうのは2学期始まってからにするから安心して。」

「よかった~。正直心配だったんだよね。いつもみたいに怒られるのかなぁって。」

「颯太くん、夏休みの宿題はもう終わっているのよね。それだったら私達からは何もいう事はないよ。」

「ちゃんと早めに終わらせて偉いね。」

嘘をついたから当然なのだが先生たちの間では僕はもう宿題が全部終わっていることになっている。
もしやっていなかったらこんなに穏やかな雰囲気ではないのかもしれない。ちょっと探りを入れてみよう。

「そういえば、陸くんはまだ結構残っているって言ってたなぁ。」

「そうなの?陸くん大丈夫?始業式の日に実はやってませんなんてやめてよ。」

奈緒先生は穏やかな口調だったが目は笑っていなかった。

宿題やってこなかったらみたいなことを確か終業式の日に奈緒先生が黒板に書いていたっけ。
どうやらあれは脅しなんかじゃないみたい。

もっと踏み込んでみよう。

「でもね。海斗くんとかはまだ全然やってないって焦ってたな。」

全くのでたらめだったが、1組から4組までの友達の名前をそれぞれ一人ずつあげてみた。さぁどうなるだろう??

次の瞬間、先生達の声のトーンが下がり、真顔になり、和気藹々とした空気が一変した。

「それホント?詳しく聞かせてくれない?」

4人同時に真剣な表情で尋ねられ返答に困った。
1人でも怖くてたまらないのに、4人揃うととてつもない迫力だ。
とはいうものの作り話なので本当のところはわからず、返答に困り果ててしまった。

黙り込んでしまうとあさみ先生が口を開いた。

「颯太くんに言っても仕方ないわね。もうやめましょ。」

その一言で他の3人も我に帰り、表情が元に戻った。
軽い気持ちで試してみたが先生達がここまで怒るとは思わなかった。

どうしよう。宿題を全くやっていないのは実は僕でしたなんて口が裂けても言えない。ママが帰ってくるまでの間、なんとか隠し通さないと。

しかし予想に反して、先生達は宿題のことには全く触れてこないこともあり、何事もなく日々が過ぎていった。
このまま行けばおそらく隠し通せるという確信めいたものが出てきた矢先のある晩、ママから電話が入った。電話の内容は次のとおりだった。

まず、ママが家に戻ってくる日だがなんと夏休み最終日前々日の8月29日の夕方らしい。

予想外の遅さに愕然とした。幸い、このまま宿題をやっていないことは隠し通せそうだから大丈夫だが、 その代わり宿題には全く手がつけられていない。ママが戻ってきて先生達が帰ってから取り掛かって間に合うだろうか??いや間に合わせるしかない。

いつまで隠し通さないといけないのかが分からず、落ち着かない毎日だったので、今後の見通しがついたのことは大きな収穫だった。

あとはママが帰ってくるまでの間、今までと同じように隠し通せばいいだけのこと。何も難しいことはない。これまでどおり普通に過ごしていれば問題ない。

そう、自分に言い聞かすとだいぶ気持ちが楽になってきた。

毎日緊張しっ放しだったので、肩の重荷が降りたというのはまさにこのことだろう。

安心していると、ママとの電話が終えた先生達から信じられない一言があった。

「ねぇ、颯太くん。今から宿題見せてくれない?」

時間が止まった。

今まで宿題のことなんて何も言ってこなかったのにどうして突然・・・

気が動転して目が泳いでいたが何とか平静を装い、尋ねた。

「え、どうしたの?突然。」

「実は、お母さんから頼まれてね。提出する前に最後に保護者の方がチェックしてコメント書いてから提出するでしょ? お母さんがお家に戻るのがギリギリだから私達にやってほしいって頼まれたの。」

「どうして?!そんなのおかしいよ!だってママが戻ってくるの29日だよ。それからで全然大丈夫でしょ!」

僕にとっては死活問題なので思わず大声を出してしまった。予想外の僕の行動に先生達はきょとんとしていた。

「どうしたの?そんなに大きな声出して。提出前に保護者の方に見てもらうのはやり残しや不備がないかを確認してもらうためなの。 そんなギリギリに確認して大きな不備が出てきたら困るでしょ。それに宿題はもう終わっているのだから、今のうちに確認した方が良いでしょ。」

そんなことは分かっている。この展開はマズイ。なんとかしないと・・・

「そうかもしれないけど・・・でもでも本当はママが見るものを先生が見るっていうのも何かおかしくない?」

「そう?ちゃんとやってあるかを見るだけだから誰でもいいと思うけど。」

「そうなんだけど・・・」

どうしよう。このままだと本当に・・・

「それだけ言うってことは、もしかして何か見せられない理由でもあるの?」

鋭すぎる指摘に心臓が止まりそうだった。
必死に断ったのが裏目に出てしまった。

「そんなわけないよ。ないんだけど・・・」

先生達が僕を見る眼が疑い深いものに変わっていくのがはっきりと確認できた。
もう、だめかも・・・

「けど、何よ?何か怪しいわね。もう決めた。絶対見せてもらうからね。早くここに持ってらっしゃい。」

すべては終わった。
どうやらここまでのようだ。
あとは成り行きに任せよう。

それから5分後、リビングで僕は先生達の前に正座させられていた。
奈緒先生のマシンガンのようなお説教が僕を襲っていた。
結局、僕の処遇はというと明日から先生達の監督の下、朝から晩まで宿題をやることになった。
スケジュールはこの後先生達が決めるらしい。

当然それだけで済む訳はなく非情な宣告がなされた。

「分かってると思うけど今からお仕置きするからね。覚悟しなさい。」

分かりきっていたことだからそれは仕方ないとしても気になることがひとつある。
それは誰に叩かれるかということだ。誰であると地獄であることには変わりないだろうが・・・

「4人いるんだから、好きな先生を選ばせてあげる。さぁ誰にする?」

そんなことをいわれても困る・・・ 選べるわけがない・・・

とりあえず、一人ずつ顔色を伺ってみた。

「先生がこういうこと大嫌いって知ってるわよね?お尻叩かれないときちんとできないのならいくらでも叩いてあげる。絶対許さないからね。」
やはり、宿題のこととなると奈緒先生は人が変わる。予想通り激怒している。奈緒先生はパスだろう。

「悪いことしたらお尻を叩かれるってこと夏休みの間に忘れちゃった?宿題ずっとサボっただけでなく、先生とお母さんに嘘をつき続けた罪は重いわよ。 悪いことをしたらどうなるかしっかり思い出させてあげる。」
あさみ先生ってすごく真面目らしいからこういう嘘とかって絶対ダメだろうな・・・。あさみ先生もパス。

「お尻叩くの久しぶりだから力加減忘れちゃってるのよね。でもこれだけのことしたのならキツく叩いても問題ないわね。 いつも以上に痛いかもしれないから覚悟しなさい。」
沙織先生に叩かれるのが一番痛いって学年中のうわさになっているのにこんなことまで言ってる。絶対パス。

「颯太くん、なかなか度胸あるわね。ここまで隠し通すなんて。でも見つかった以上は覚悟を決めなさいよ。 今までサボった分もたっぷりお仕置きさせてもらうわよ。しっかり反省させてあげるからね。」
真由美先生だけなぜか笑顔だが実はこういうのが一番怖い。となると真由美先生もパス。

分かってはいたが決められる訳ない。
どうしようか???

誰を選べばいいかなんて分からない。 だって、誰を選んだって地獄が待っていることには変わりないんだから。

仕方なく僕はその場で目を閉じた。 すると、どこからか声が聞こえてきた。

その声はそれぞれ誰を選ぶべきかを僕に伝えてきた。

この声に従うことにしよう。

声が多いのは・・・

拮抗しているが、 沙織先生と奈緒先生がやや多いみたいだ。

沙織先生と奈緒先生とでは、ほんのわずかだけれど沙織先生の声が多い・・・

気が付くと僕はフラフラと沙織先生のところに向かっていた。

すると沙織先生は僕の手を取ると僕をひざの上に乗せた。

「私でいいの? 一番痛いお仕置きになるかもよ。」

僕のお尻を大きな手で撫でながら呟いた。 その言葉にドキッとし、思わず先生の顔を見たが、先生の表情は 真剣そのものだった。

本当にこの選択で良いのだろうか?

もう少し考えよう。

まだどうなるか分からない。

4人のうち誰が選ばれてもおかしくはない状況だ。

ようやく決心がついた。
大きく深呼吸をした後、僕は沙織先生と声に出した。

沙織先生自身も含め4人とも一瞬、驚いた様子だった。
無理もない。僕だってどうして沙織先生を選んだのかが分からない。

最初は沙織先生だけはやめようって思ってたのに。

驚いていた沙織先生はすぐにその場で姿勢を正し、膝をポンポンと叩きながら僕に目で合図をした。
その顔は真剣そのものだった。沙織先生に怒られるのはこれがもちろん初めて。鼓動が早くなる中、沙織先生の膝の上に寝そべった。
僕の視線の先には沙織先生以外の三人がいた。奈緒先生とあさみ先生は相変わらず口をキュッと結んで厳しい表情でじっとこちらを見ている。
真由美先生は僕を憐れむかのように僕を見ていた。

こんな状況誰が予想しただろう?
僕の自宅のリビングで僕の担任でもない沙織先生にこれからお尻を叩かれるなんて。

怖い気持ちはもちろんあったが、どちらかというとホッとした気持ちが強かった。
夏休みの後半から今日まで宿題をやったと嘘をつき続けてきたがもうその必要もない。
いつ見つかるビクビクしながら毎日を過ごす必要もこれでなくなる。
その代わりちょっと痛い思いをしないといけないのは嫌だったが自分が撒いた種だと自分に言い聞かせた。
この際だから全てさらけ出して楽になろうと思った。僕は沙織先生の膝の上で顔を床に伏せ、目を閉じた。目の前が真っ暗になって沙織先生の声が聞こえてきた。

「もう一度話を聞かせてくれない?正直に答えてね。」

「まず、宿題は、計画を立てて少しずつやりましょうって言われていたよね?」

いつもなら回答にとても困る質問だが今の僕にありのままを話すことへの抵抗はなかった。

「言われてた。でも計画は立てなかった。面倒だったんだよね。」

いつもだったらもっとオブラートに包んだ言い方をするだろうけど。。。

「そんなことだからこういうことになっちゃうんでしょ。」

「そうだよね。でもまぁ何とかなるかなぁなんて。」

奈緒先生にこんなことを言おうものならどれだけお説教されるか分からない。
同じように沙織先生からも色々言われると覚悟していたが予想に反して特に追求はなかった。
見事に肩透かしをくらったがこれは嬉しい誤算と言っていいだろう。

「出校日の日は、どうしてあんな嘘ついたの?」

「本当のこと言ったら絶対怒るよね。奈緒先生に聞かれたとき奈緒先生、全然目がわらってなかったからね。」

またしても沙織先生からの追求はなかった。

「宿題どうするつもりだったの?まさかこのままにするつもりじゃなかったんでしょ?」

「やろうと思った矢先に先生達が来て、やるにやれなくなっちゃった。」

これがそもそもの誤算だった。これさえなければと悔いが残る。

「先生達にもずっと嘘つき続けて。。」

「今更、言えないよ、本当のことなんて。嘘が嘘を呼ぶってやつでしょうがないよね。」

「…」

「でも正直ホッとしてるんだ、これでも。このまま嘘をつき続けるのも辛かったから。」

洗いざらい話したらなんだか気持ちがスッキリした。とは言え僕のことを心配してわざわざ毎日家に来てくれている先生達に嘘をつき続けたのは良くなかった。改めて謝ろう。

顔を上げ先生達の顔を見上げた。

するとそこにはとんでもない光景が広がっていた。

さっきまで厳しい顔をしていた奈緒先生とあさみ先生が厳しい顔を通り越して鬼の形相となっていた。

とんでもなく怖い顔で僕を睨み続ける二人から思わず目を逸らすと、今度はその隣にいる真由美先生と目があった。
真由美先生は僕を見るなり、声にこそ出さないが呆れ顔でバカと口にした。

バカ?
どうしてだろう??
正直に話せと言われたから話しただけなんだけど。

最後に沙織先生の顔を見上げる同じような顔で睨みつけられた。

「どう…したの?」

「あれだけ予定を立ててやりなさいって言われていたのに、面倒だった?私たちの気持ちも考えずにはっきりと言ってくれるわね。
それに、嘘が嘘を呼ぶからしょうがないですって?ふざけるのもいい加減にしなさいよ。」

え??

だって正直に話せって言われたから。
何がマズかったんだろう?

「自分のしたことをしっかり反省させてあげるからそのつもりでいなさい。」

先生達を怒らせてしまった理由が分からないまま、僕はズボンとパンツを下ろされた。

奈緒先生をあそこまで怒らせたらお尻を叩かれる前に1時間くらいはお説教されるかもしれない。
奈緒先生と違ってお説教の全くない沙織先生を選んでよかったかもと少し思った。
その分、お仕置きは痛いかもしれないけど・・・

次の瞬間、今まで経験したことのない痛みが僕を襲った。

奈緒先生にいつも叩かれるときも、もちろん痛いんだけど、はっきり言って次元が違う。

一撃で僕の心は折れ、恐怖感で頭がいっぱいになった。

「痛いッ!イタいっ!ゴメンナサイ!」

僕が大声を出しても全く相手にせず、沙織先生は淡々と僕のお尻にその右手を振り下ろし続けた。

痛くてたまらなくて体を捩ろうとするが沙織先生の膝の上にしっかりと押さえつけられて身動きができない。

さっき沙織先生に色々と話したとき、ほとんど追求されなかった理由がようやく分かった。
バチンバチンという大きな音と共に僕を襲うこの激痛が沙織先生なりの追及なのだろう。。

ゴメンナサイゴメンなさいと連呼し、只々こんなことするんじゃなかったと自分を責めた。

数発叩かれただけだけどもう限界。

もう許してと言いかけたその時。

「この程度じゃまだ許さないわよ。」

僕の心を見透かしたかのような一言で淡い期待は消え去った。
その後は、もう悲惨の一言だった。
しっかりと押さえつけられまったく抵抗ができないのでどうしようもない。
唯一できることは、謝ることくらいだけど、何度謝っても返ってくる答えは、消極的なものばかり。
少しでも早く沙織先生のひざの上から解放されたくて、思いついたことをとにかく口にした。

明日から予定立ててちゃんと宿題をやります、とか

宿題終わるまではいっさい遊びません、とか

宿題終わるまでは、ゲーム機や漫画を先生達に預けます、とか

正直、かなりきつい提案も、この地獄から逃れたい一心で、何の躊躇なく行った。
なりふり構わない姿勢が反省の現われと評価されたのかは分からないが、ようやく沙織先生の手が止まった。
「それじゃあ、明日からがんばれる?夏休みも残り少ないから本当にしっかりやらないと宿題終わらないわよ。」

僕が頷くと沙織先生はようやく僕をひざの上から下ろしてくれた。
その後、ソファにうつぶせになり、お尻を冷やしながら、先生達4人とこれからのことを話し合った。

「とりあえず、明日からの予定を立てましょ。たっぷり叱られた後だから明日にしましょうと言ってあげたいのだけれど、
今日やっちゃいましょう。」

「夏休みに入る前に予定の立て方は説明したわよね。それに従って予定を立ててみて。」

予定の立て方??
そんなの聞いたっけ??
全く記憶にない。

「どうしたの?夜も遅いから早く終わらせましょ。」

いや、そういわれても・・・

「がんばるって約束してくれたから、許してあげたのよ。だから、しっかり考えてちゃんした予定を立ててね。」

お願い、ハードル上げないで・・・

「変な予定立てたら、お尻叩くからね 笑 今度は誰がいい?」

変な汗をかいてきた。命がけのスケジュール作成だ・・・



作者あとがき

学校以外のシチュエーションが欲しかったので無理やりでしたが・・・ これで完結ではなく続きも一応予定しています。

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