4組のルール

こんにちは。滝澤真由美です。 今は5時間目の授業中です。

今日最後の授業ということで生徒達の頭の中は既に放課後のことでいっぱいのようです。 そうなると、みんなソワソワし出して、どうしてもおしゃべりが多くなりがちなのが、この五時間目です。 各先生それぞれが、おしゃべり防止の策を講じていますが、私の4組ではこんなことをしています。

4組の教室の黒板の横に生徒全員の名前を書いた名簿が張ってあります。 それぞれ名前の横には所々赤いシールが貼ってあります。

これ何だと思います?

実はこれ、生徒が何か悪いことをして注意を受ける度に貼られるシールなんです。 あまりにも悪いことは除きますが、ちょっとしたこと(宿題を忘れたり、遅刻をしたりはもちろん授業中におしゃべりがひどかったりなどなど)で注意を受けると、ここにシールを貼っていきます。 もう既に何枚も貼ってある困った生徒もいればまだ一枚も貼られていない優等生もいます。

そしてこのシールが3枚貯まった子は、、、 帰りのホームルームの時にみんなの前でお尻10発です。 どうして職員室ではなく教室のそれもみんなの前でと思われるかもしれませんね。

理由は、悪いことをするとこうやってお尻を叩かれますよということを本人も含めてクラスの全員に知らせるための言ってみればデモンストレーションのようなものです。 だからそこまでキツくは叩きません。 とはいっても痛くなくては意味がないのでもちろんある程度は痛くします。 お仕置きを受けるとその次はまたシールが3枚貯まったらあとは同じです。 2回目からは容赦する必要はありません。 職員室に呼び出してしっかりと痛い思いをして反省してもらおうと思っています。 幸いにもまだ二回目のお仕置きになった子はいません。

このシステム、我ながら良いアイデアだと思うのですが、生徒達からは酷すぎると最悪の評判なんです。。

でも考えてみてください。 よそのクラスだとちょっと遅刻したり、掃除をサボるだけでお尻を叩かれるそうですが、私はよっぽどのことでなければ基本2回までは大目に見るので決して悪い話ではないと思うのですが。。。 今のところは何と言われようとこの仕組みを変えるつもりはありません。 さて、今日もおしゃべりばかりしている子にシールをプレゼントしていきましょう。

隣同士でいつも仲の良い颯佑くんと、ありさちゃん。 この二人、今日は授業に身が入らないようで午前中も何度か注意しました。 授業中のおしゃべりも一回ぐらいではシールにはしませんがこれだけ続くとさすがに見逃せませんね。

「颯佑くんにありさちゃん、またおしゃべり?今は授業中だって何度言えば分かるの?」

「ゴメンナサイ。。」

注意をするとその場は素直に謝りはしますが、ちっとも行動に現れません。

「これでもう何度目かなぁ。何度言っても聞かないない子は、、、」

ここまで言って、ようやく目の色が変わります。 でも、もう手遅れです。

「ちょっと待って!もう絶対静かにするから!」

「もう遅い。二人共、前出ておいで。」

注意をするときは原則前に出てきてもらいます。 中には往生際悪くゴネる生徒もいますが相手にはしません。 今日の二人は観念したのか、重い足取りではありますが素直に前に出てきました。

「朝から毎時間注意しているんだけど。」

颯佑くんはどうやら覚悟を決めたようです。 でもありさちゃんはまだ諦めがつかないようです。

「そんな?。いいでしょ、先生。お願い。」

「だ~め。」

シールは手帳に入っています。 手帳を開き、シールを取り出すと、二人に一枚ずつ渡し、貼るように言いました。 不満そうに渋々シールを貼る二人へ背中越しに声をかけます。

「これで二人共2枚ね。いい加減ちゃんとしないと知らないからね。」

二人はバツの悪そうに頷き席に戻っていきました。 その後は一言も話さず授業を聞くようになりました。 やはり効果は抜群ですね。

5時間目が終わりあとは帰りのホームルームを残すのみとなった。  真由美先生が明日の連絡事項を色々と話している。 今日も何事もなく無事にと言う訳には残念ながらいかなかった。 5時間目があの一件がどうしても悔やまれる。。。 これでリーチがかかった。今後は下手なことはできない。毎日ギリギリの時間での登校だったから明日からはもう少し早くしないと。。言うまでもないが絶対に遅刻なんてできない。。 10分早く家を出よう、いや15分の方が良いだろうか。 少しだけ早起きするだけのことだが、気が重かった。 リーチがかかることによって他にも色々と面倒なことになりそうだ。

「明日の連絡はこのくらいかな。みんなから何かある?」

明日からのことを考え、少々うんざりした気分で先生の話を聞いていた。 するとクラスメイトの由衣が手を挙げた。

「先生。今日の昼休みに颯佑くんが・・・」

その一言にドキッとしながら由衣の話を聞き続けた。

「あら、颯佑くんがどうしたの?」

「教室の中でサッカーしていて颯佑くんの蹴ったボールが私に当たって・・・」

これはマズイ・・・ 由衣の言っていることは紛れもなく本当のこと。 ボールが当たって結構痛がっていたからすぐに謝ったんだけれどそのときは目も合わせてくれなかった。

だからその場はこれ以上謝っても無駄だと思ってほどほどで済ませていた。 明日になれば機嫌も少しは直っているだろうから、そのときに謝ればよいと軽く考えていたが、まさかこんな報復をしてくるとは・・・

これは対応を誤るとシールものだ・・・

・・・って、ちょっと待て・・・

さっきの五時間目に1枚もらって僕はリーチだった。 ということは・・・

・・・これはマズイ

由衣の話を聞いているうちに次第に笑顔が消えていった真由美先生に弁解すべく 由衣の話に割って入った。

「待ってよ、先生! わざとじゃないんだよ。それにちゃんと謝ったよ。なんだけど・・・」

僕のその一言に由衣がさらに被せてきた。

「あんなの謝ったうちに入らない。全然心こもってなかったし。」

「だって、謝っても目も合わせてくれないから・・・」

「だからって謝らないっていうのもおかしいと思う。」

「そうよ。颯佑くんサイテー。」

「ホントホント。」

ほかの女子が続々と割り込んできた。 いつも不思議なんだが、いったい何なんだろう?女子達のこの妙な連帯感は。。。 ある程度は分かっていたが、どうやら勝ち目はなさそうだ。 教室内で僕一人が悪者だという空気が流れるなか、ついに真由美先生が口を開いた。

「颯佑くん。」

強い口調でジロリと睨みつけられた。

「前出ておいで。」

シールを渡される時は原則こうやって前に呼ばれる。だからこの前出ておいでというフレーズが出たらほぼアウトと言って良い。 とはいえ前に呼ばれてもシールにならない場合もごくまれにあるのでその僅かな可能性にかけるしかなかった。 ビクビクしながらに前に出た。 先生がシールを出すべく手帳を開いたらそれまでだ。 先生の動向を伺うべく、教室内はシーンと静まり返っていた。

「教室の中でサッカーやっていいのかなぁ?」

「ダメ、、、です・・・」

「そうよね。いつもやっていたの?」

回答に詰まった。 ここが運命の分かれ道だ。

正直にやっていたと答えたらもうダメだろう。 逆に、「やっていない、今日がはじめて」と答えればもしかしたらもしかする。

どうしよう??? 誤魔化したいのは勿論だが、一方でそれはかなり危険な行為だ。

というのも真由美先生はとにかく嘘が大嫌い。 ちょっとした嘘でもバレようものなら大変なことになる。 普段はニコニコしている先生だけれど嘘をついたときはビックリするほど急変する。

今日と同じように帰りの会で女子から告げ口をされた男子が、誤魔化そうとうっかり嘘をついてそれがばれたときは大変だった。 帰りの会が終わった後、その男子は先生に抱えられて職員室に連れて行かれたのだがそのあと彼がどうなったかは知らない。 先生の手には物差しがあったのでもしかしたら。。。 あの時の迫力は今も忘れない。 だから誤魔化すのであれば、絶対にばれないようにしないといけない。

さぁ、どうしよう。。。

僕は小さく頷いた。 正直に話すことを選択した。

決め手となったのはやはり嘘がばれたときのリスクの高さだ。 それに加え、もし嘘をついたとしても、その直後にまた女子達が 余計なことを言ってあっさりばれるという可能性も十分あった。 本当のことを言わざるを得なかった。

「フフ、正直でよろしい。」 先生の顔に笑顔が戻ると、思わず期待が膨らんだが現実はそんなに甘くなかった。先生は手帳を開いた。

まさかの1日2枚・・・

「はい、じゃあプレゼントあげる。貼っておいで。」

そう言って先生は手帳からシールを取出し、僕に差し出した。

次の瞬間、教室内の一部から歓声が上がった。 何の歓声かは僕が一番知っている。

「颯佑くん、おめでと。これで3つね。約束通りお尻10発よ。」

3枚目のシールを貼り終わると先生がそう僕に告げた。 由衣をはじめとした女子達がニヤニヤと僕を見ていた。

教室のいつも先生が立つところに椅子が置かれ、そこに先生が座る。

その後、先生の膝の上にうつ伏せになる。

そして先生は、膝の上にあるお尻を・・・

お尻叩き、お尻ペンペン、お尻10発・・・ 呼び方は先生によって様々だが、これが僕達生徒が最も恐れる先生達の恐怖のお仕置き。

とはいっても僕はまだされたことがないから見当がつかないが、 噂では物凄く痛いらしい。。。

1組では遅刻や宿題忘れを繰り返すと、2組では、2回、校則違反をすると、3組ではちょっとでも悪いことをすると、そして 4組ではシールが3枚貯まると、、、これが待っている。 放課後、職員室に呼ばれてそこでというのが多いようだけど4組では、なぜか帰りの会。 職員室に行くのも怖いけどみんなの前でというのもちょっと。。。 不安な顔を見られたくなかったから由衣達から顔を背けた。 その後、先生が自分の太ももをポンポンと軽く叩いた。

「はい、ここ。」

太ももの上にうつ伏せになれということだろう。。 心臓がドキドキするなか、 恐る恐る言われた通りにした。

「もうチョット上かな。」 先生の太ももの上に僕の胸あたりが来ていたがお腹あたりが来るようにした。 そうすると足が床に着かず宙ぶらりんの状態となって、しっくりこない。これで良いのかな??

「はい。良いわよ、これで。」

良いらしい。足がつかないのはなんだか落ち着かない。。 それに教室の床が木目の模様までしっかりと見える。 こんなにじっくりと見たことはなかったから、なんだか新鮮だった。 右を向くと一番前の席の子達の顔がよく見えた。 心配そうに僕を見ている子、 顔を覆っている子、ニヤニヤとこちらを見ている子様々だった。 僕をこんな目に合わせた張本人の由衣と目が合うと彼女はあろうことか僕に向かって舌を出してきた。 そして何かを口走った。聞こえなかったけれど口の動きで何て言ったのかは分かる。 彼女が口走ったのは、「ば~か」だった。 本当なら凄く悔しいのだろうけどこれからのことで不安が一杯な今は、それどころじゃない。

「さてと、颯佑くんは、今日で2つもシールもらっちゃったね。そういえば一つ目は何だったっけ?」

「確か遅刻だったかな。。」

「そっか。フフ、じゃあお仕置きだからね?。痛いわよ♪」

いつものことだけどこうやってお尻を叩かれるときなぜか先生はいつもあまり怒っていない。 沙織先生の物凄く怒った声が聞こえてきたりする隣の三組とは正反対だった。 どういうことなんだろう??

「じゃあそろそろ始めるわよ。」

グッと歯を食いしばった。その後「いーち」という先生の掛け声が聞こえ、お尻に痛みが走ると同時に、パンという音が静かな教室に響いた。

痛みに顔をしかめた。でも物凄く痛い、、、という訳でもない。 もっと痛いと思っていたから、良い意味で見当違いだった。 その後痛みが治まる前に二回目が来た。 一回目の痛さがまだ残っていたからなのか二回目の方が痛く感じた。 その後さらに三回目が来ると思わず声が漏れた。

「ほら、ガマン。颯佑くんが悪いんだからね。」

我慢と言われても、結構痛い・・・ その後、4回、5回と来ると段々辛くなってきて目に涙が溜まってきた。 泣くのは悔しかったからみんなに見えないようにそっと涙を拭った。 一発ずつ数を数えながら先生は叩き続けた。 残りは5回。これがあと5回もと思うと正直辛かったがうっかり泣こうものなら また由衣に馬鹿にされると思い絶対に耐えようと歯を食いしばった。 6回、7回と叩かれるといよいよガマンできなくなってきた。 もう許してという言葉が出かけた。 そんな中、またしても由衣と目があった。 声こそ出していないが由衣はまたしても「バカ」といってきた。 そもそもこうして痛くて恥ずかしい目にあっているのは、ほとんど由衣のせい。 そう思うと急に怒りがふつふつと湧いてきた。 声は出さなかったが口の動きだけで、由衣に言い返した。

-うるさい!-

どうやら由衣に伝わったようだ。 ムッとした表情をするとさらに応戦してきた。

-なによ!-

-ばか!-

-泣いてるくせに-

-泣いてない!ばか!-

そんなやり取りをしていると由衣は悔しそうな顔で僕から目を背け、真由美先生に見えるように僕を指さした。 由衣というか女子は分が悪くなるといつもこれだ。そもそもけしかけてきた来たのは由衣なのになどとうんざりしていると、 次の瞬間、お尻に物凄い痛みが走り、バシン!という今まで以上に大きな音が響いた。

「痛いッ!」

思わず背中を反り、お尻に手をやった。 背中越しに真由美先生の顔が目に入ると、先生は僕をジロリと睨んだ。

「叱られている最中に何やってるの。」

「ゴメンナサイ。。。」

厳しい目つきで、やや低いトーンで話す先生の迫力に圧されて、まだ痛みの引かないお尻に手をやったまま、思わず情けない声が出てしまった。

「反省する気がないのだったら、もう1回初めからにするわよ。」

信じられないことを口走る先生にゾッとしてもう一度謝った。

「それとも、今ぐらい強く叩こうか!?」

それだけは絶対に嫌で必死に首を横に振った。

「ったく。じゃああと2回ね。ほら、手どかして」

さらに目に溜まった涙をまたしてもそっと拭った。

満足そうに僕を見下ろす由衣の顔がなんとも憎らしかったが、 目に入らないように顔を背けた。 素直に謝ったおかげか残りの2回はこれまでと同じ強さだった。 先生の膝をぐっと掴んで何とか歯を食いしばった。

「はい、おしまい。もういいわよ、起きて。」

僕の腰をぐっと押さえていた先生の左腕が外れた。 ジリジリと痛むお尻を撫でながら起き上るともう一度目に溜まった涙を拭った。 その様子を勝気な表情で眺める由衣に謝るのは本当に嫌だったが先生には逆らって また叩かれるなんてことはもっと嫌だった。

完全なる敗北とはこういうことを言うのだろう・・・ まだ痛むお尻を撫でながら渋々、ごめんなさいと頭を下げた。

「ねぇ、由衣ちゃん。こうやって謝っているんだから、もう許してあげてくれないかなぁ。」

先生に言われてようやく由衣は頷いた。 こうしていつもより長い帰りのホームルームは幕を閉じた。

作者あとがき

こんなルールがあったらわざと悪いことしてしまいそう 笑

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